恋のカミカゼ 1話|気持ちを撃ち込むチョコ職人・恋野神風


<登場人物>
恋野神風(こいのかみかぜ、38才)
水野沙綾香(みずのさやか、29才)
木村和仁(きむらかずひと、27才)

〇神風の家
神風「私は恋愛の天才だ。これまで1000人の女性と恋をしてきた。今は独り身なので、すべての恋は完了済みだ。私の家では先祖代々伝えられてきたことがある。それは、1000人の女性と恋をすると、ある特殊な力が芽生える。それは、気持ちを詰め込んだチョコ弾を作れるチョコ弾職人になれる事。私の家系ではここ300年以上、チョコ弾職人は誕生していない。私は今38才。家系図の裏にはチョコ弾職人になった人たちの年齢が書かれているが、私は最年少チョコ弾職人となっている私の父親は恋を1回しかしなかったと言っていたが、その反動が私に来たのかもしれない。

〇2月7日、18時 喫茶店
沙綾香「あのー、伊吹さんですか?」

神風M「私のアカウント名は伊吹という普通にありそうな名前」

神風「さーさんですか?」

沙綾香「そうです。始めまして、いきなりなんですが、サイトに書いてあったように、私の気持ちを伝えることができるのですか?」

神風「もちろん。でも、その前にまずは、お互い自己紹介をしましょう。こうい事は信頼関係が大切なんです。私の名前は恋野神風。」

沙綾香「あっ、すみません、私は水野沙綾香です。」

神風「では早速、本題に入りましょう。」

沙綾香M「えっ、なんてマイペース」

神風「まず、沙綾香さんのご年齢やご職業を教えてもらえますか。チョコ弾を作るためにはあなたの事を少しでも多く知る必要があります。」

沙綾香「へー、そうなんですか。まあ、いいですけど、年は28才、仕事は家事代行サービスで家政婦をしています。」

神風は赤い手帳にメモを取る。

神風「気持ちを伝えたい相手は、その家事代行の派遣先の人ですか」

沙綾香「そうです。よく、お分かりで。」

神風「まあ、恋については達人中の達人ですから。相手は年下ですよね。」

沙綾香「そうです。そんなことまで、お見通しなんですか。」

神風「あなたみたいなタイプは年上に憧れつつも、可愛い年下を好きになるのが定石。」

沙綾香M「ちょっと、こわい」

神風「それでは、もう少し聞かせてもらいます。あなたはこれまで何人の方とお付き合いしましたか?」

沙綾香「うーん、3人かな」

神風「3人とも年上ですね。」

沙綾香「その通り…」

神風「今回想いを伝えたい人と2人でどこかに行ったことがありますか?」

沙綾香「彼、木村和仁さんとは今年のお正月に家の近くにある神社に一緒に初詣に行きました。そこで、おみくじを引いたら私が吉で、彼が凶で。そしたら彼がもう一回引くって言ってダダこねて可愛かったな。結局、もう一回引いたら大凶だったので、しばらくブツブツ言って、それも可愛くて…」

神風「あっ、その話はその辺で・・。でも、だいぶん、沙綾香さんの気持ちが伝わってきました。では、和仁さんの趣味は何ですか。」

沙綾香「彼の趣味?、最近、テレビドラマにハマってます。ラブコメディーが好きみたいで、最近ではどこかのVODと契約して、暇さえあればドラマを見てます。私はあまりドラマの事を知らないのですが、和仁さんが主人公を真似て、いきなりドラマの台詞を言ってくることもありました。ちょっと紛らわしくて、ドキッとさせられることも多くて、大変なんです。」

神風「なるほどねぇ、大体のことは分かりました。それでは、私は家に帰ってチョコ弾を作ります。ちょうど、来週がバレンタインデーですから、2月14日の夕方18時にここで待ち合わせしましょう。チョコ弾は完成しても時間が経つと効力が落ちるので、撃つ直前にお渡ししてるんです。じゃ、ここのお支払いはお任せします。」

沙綾香「えっ、あっ、…」

神風は沙綾香に支払いを任せて店を出た。

〇2月14日 18時 喫茶店

神風「こんにちは」

沙綾香「こんにちは、あのー、依頼料です。」

神風「あっ、今回は頂きません。特別に無料でさせていただきます。」

沙綾香「えっ、どうしてですか?ネットでは10万円って書いてましたけど・・・」

神風「あなたには10万円に見えましたか。あのサイトはどうしても告白したいけど勇気が出ない人しか見えなくて、依頼料はその人が出せるギリギリの値段が見えるようになっているんです。」

沙綾香「ふーん、よく出来ているサイトですね。じゃ、私は10万円を払えば…。」

神風「あ、いや、今回はあなたの気持ちだけで十分です。この前、ここの支払いをしてもらいましたからね。で、これがチョコ弾です。」

沙綾香「なんかすみません。刑事ドラマとかでよく見る普通の鉄砲の弾みたいね。」

神風「まあ、見た目はね。でも、このチョコ弾にはあなたの想いがぎっしり詰まっています。」

沙綾香「これ、どうやって使うの?」

神風「この銃を使って彼を撃ってください。」

神風はライフルを沙綾香に渡す。

沙綾香「こんなの持ち歩いたら警察に捕まるじゃ?」

神風「そこは、ご安心ください。このチョコ弾とライフルは私とあなたにしか見えません。」

沙綾香「なんか、何もかも都合がいいみたいね。」

神風「まあ、そう言わずに、早速これから撃ちに行きましょう。じゃ、ここの支払いもお願いしますね。」

沙綾香M「えっ、10万円もってるから、まあいいけど」

〇和仁の家の前

神風と沙綾香が和仁の帰りを待っていると、向こうから和仁が帰ってくる。

神風「沙綾香さん、よーく、狙ってくださいよ。チョコ弾は1発しかないですから。」

沙綾香がライフルを構え、照準が合ったところで引き金を引く。

「バーン!」

音が鳴り響くと、チョコ弾が和仁の左胸に命中する。和仁の脳裏には沙綾香との何気ない会話や初詣に行った時の楽しかった場面、沙綾香が心に秘めていた想いが走馬灯のように駆け巡る。

和仁M「えっ、沙綾香さんの事が急に頭に浮かんでくる。えっ、これが沙綾香さんの気持ち?うわー、僕のことをこんなに…。会いたい、沙綾香さんに会いたい」

沙綾香が走って、和仁の前に現れる。

沙綾香「和仁さん。私の本命のチョコレートを受け取ってもらえますか。」

和仁は喜んでチョコレートを受け取って、沙綾香を抱きしめる。沙綾香が振り返ると、そこには神風の姿はない。

〇神風の家 夜
神風はチョコ弾づくりの部屋にいる。

神風「言い伝えは本当だったんだ。今日初めて仕事の依頼を受けたけど、これは本物だな。さーて、これからどうするかな。」

神風は沙綾香のチョコ弾を2個作っていた。神風は残りのチョコ弾をコレクションケースに入れて冷蔵庫に入れる。

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